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three stylus + / koishistyle
[GTRN0012/THCD-08001   Release: 2014-07-18]

 所謂プロの犯行である
「優れているにも関わらず見過ごされがちなガジェット音楽作品の発掘と集約」を旨とする当レーベルに於て、斯くしたアーティストおよび作品を持ち出すのは正直チートではないかという気もするが、このDS-10から始まる(アマチュアからプロまで巻き込んだ)ガジェット音楽シーンの牽引者の一人を取り上げないとしたら名折れも甚だしいと云うものであろう。

 ガジェット楽器系に於てはKORG製品の公式デモの多くを手掛けるkoishistyle、作編曲に於てはアニメ・特撮ソングを手掛ける大石憲一郎──ニッチなフィールドとマス(大衆)向けのフィールドの間を行き交う氏が、2008年に自主制作した『three stylus』。長らく廃盤であったこれに、コンピレーション用や動画限定など、当時まとまった個人作品として収録されることの無かった6曲を新たに追加、計16曲ものボリュームを誇る配信版『three stylus +』として再リリースされた。トラックが増加したにも関わらず800円(or more)というコストパフォーマンスの高さだ。

 アルバムタイトル通り、コンセプトは操作デヴァイスとして「スタイラス」を使用する3つのガジェット楽器――無印DS-10(Nintendo DS)を主軸として、お馴染み学研『大人の科学』で出された低価格アナログシンセSX-150、ゼロ年代に復刻した1970年代の電子楽器スタイロフォン――。歌モノ2曲以外は全てこれらだけで完結している。スタイロフォンに関しては、少し聴いた感じだとサンプリングして別途打ち込み直したようなタイトさだが、これは正真正銘手弾きされたものだ。以下の動画をご参照頂ければその正確無比な演奏振りが一目瞭然だろう。





 兎に角スタイロフォンが歌う、という点に尽きる。
 iPadやスマートフォンで楽器アプリに触れてみた経験のある諸氏なら判ると思うが、タッチパネル(またはそれに準ずるインターフェース)で闊達に弾きこなすのは難易度が高い。しかし、表題曲でもあるこの動画の他、その儘アニメのOPテーマとして使われて良い程の「light is here, certainly」、スタイロフォンのブラックモデルに由来するタイトルであろう「Studio Black」、或いはヴォーカルに対してリードギターのように振舞う「transmigration」等々、本来のチープな電子音が演奏の妙でこうも表現豊かになるのだ。驚嘆の一言に尽きる。

 そして楽曲そのものの完成度の高さ。お聴きの通りなのでわざわざつぶさに挙げる迄も無い。メロディやリフ以上に、考え抜かれた全体のリズムや豊潤な響きのコードワークを以てkoishistyle節が表現されるという、徹底的にクオリティを追い込むアレンジャーらしい特色が詰まっている。明るい方向にもシリアスな方向にも扇情的で深い奔流を湛える様には、これ以上語るべき言葉を持たない。
 また、一時話題となった伝説の発掘NESゲーム『CheetahMen II』のリミックスでは、異常にスタイリッシュな再構築の妙と「大人げない本気」の諧謔を同時に愉しめる。勿論、だからと言って手を抜いた箇所は一切無い、間違いの無いkoishistyleクオリティを発揮している点は強調しておきたい。

 Nintendo DSで音楽を作る、それ自体は当然多くのユーザーが成してきたことである。しかしそれを、プロが同じ立場で同じように使い、作編曲家という立場らしく俯瞰的に捉え、音源のポテンシャルを引き上げることで様々な方法論をユーザーへ披瀝してきた。全く以て大人げないと笑みすら浮かんでしまう感じもするが、何であろうと全力でやり倒すスタンスは秀でた職人の証左であり、何よりそれでガジェット楽器に依る音楽の在り方が数段跳ね上がったのは疑うべくも無い(氏と同じくプロの立場でリードしてきたアーティストは追々レーベルで取り上げる次第だ)。匠の技を存分に堪能してほしい。


付記:koishistyleは海外からのリスペクトも止まない。以下にkoishistyle.bandcamp.comにいち早く寄せられたコメントを翻訳する。

quote:“koishistyleは2008年のKORG DS-10リリース当初から世界有数のDS-10ミュージシャンの一人として広く知られており、当時の作品や未発表曲で成るこのコレクションは正にその所以を示している。このアルバムのトラックの何れもが巧みなサウンドデザインと非常にメロディックなソングライティングとのバランスに優れた、極めて技巧的な逸品である。これはDS-10で真に出来得る事を知りたい全ての人々にとって必聴のアルバムだ。”(bryface)

bryfaceは、フュージョンから映画音楽系まで多彩な作風を持つカナダ在住の“multidisciplinary(学際的)”DS/チップチューンアーティスト。日本にも数年毎に来訪してはガジェット音楽系のイベントやBlip Festival(Squaresounds)に参加してライヴを繰り広げている。代表作として、DS-10での『HOW TO DODGE LASERS』、GAMEBOYでの『VARIOUS TOPICS』。


Vocal: MAIKO (tr01,tr10)
Lyric: D.K (tr01,tr10)
tr01-tr10,tr12,tr13
Mix & Mastering: Go Kodachi (STUDIO SLINKY)
All Intstruments & Compose(except tr05,tr15): koishistyle

KORG DS-10/PLUS, GAKKEN SX-150/markII, stylophone
electro, techno, house, pop, fusion, bossa


[Artist Info] koishistyle
特撮系・アニソン系をメインフィールドとする作編曲家・大石憲一郎の、ガジェット音楽活動での名義。
KORG DS-10を発売早々手にしたは良いものの、メロディのない音楽をどう作っていいのかわからず悶々としていたところ、同年に復刻版スタイロフォンが発売。これだ!と組み合わせた動画を作ってみたところ好評につき、それを元に制作したのが『Three Stylus』。
この作品のように、この界隈では逆に珍しい「明確なコード進行とメロディがある」曲をガジェットで作ることを信条としている。
KORGオフィシャルのガジェット系デモなど、DAWを使用した過剰オーバーダビングによる楽曲および動画にも定評がある。
本業(職業としての作編曲)で出涸らしてしまい、趣味の音楽活動がほとんど出来てないのが近年の悩み。
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