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WEEKEND / マキノユキ
[GTRN0015/WR-017   Release: 2014-10-16]





 戦中の軍歌/軍楽とテクノ/アシッドをクロスオーヴァーする異色の自主レーベル・若草レコードのプロデュースで、マキノユキのシングル『WEEKEND』が今秋、M3(第一展示場・C12b)でリリースされる。
 KORGのvolca beats、volca bass、volca keysの3機だけを使用してライヴ的に作られた楽曲で、ヘヴィでありつつ脳天気な明るい印象も併せ持つ、ちょっと捻れていて面白いミニマル/アシッドだ。非常にドープなレーベルからの初リリースというだけでも諸々興味は尽きないが、ミニマルやノイズが好きでモジュラーシンセの製作を志しているなど、経緯や嗜好を掘り下げるほどマキノユキ当人もドープであることが判り、実にさもありなんという必然の結果である。若草レコードとの連携企画として、Gadgetron Soundsがインタビューを行った。


──音楽を始めた時期について教えてください。どういった動機や音楽的影響から始まりましたか?

 音楽というか、シンセが先に好きになりました。テクノな音楽を探し始めたのは大学に入ってからなので、ここ2~3年です。
シンセを始めたのは、高校1年のときに軽音部のイケメンな先輩に、文化祭のX JAPANのコピーでキーボードを頼まれたときです。張り切って自分のキーボード買おうと思い、いろいろ調べたら、シンセサイザーというものを買えばよいということで、バイトもっとしなきゃなーとか考えていたら、別の先輩から「本屋さんでシンセサイザー売ってたよ」と。それは学研『大人の科学』のSX-150(※1)だったんですが、鍵盤もついていないのに私は見た目だけで衝動買い!そして中の本を読んで、アナログシンセかっこいい!!基板萌え!!!となり、今に至ります。これが間違いなく、今のわたしに繋がってます。

 なので、直接の動機は「YMOを聞いて」とか「電気グルーヴに影響されて」とかではないんです。大学に入って、バイトで稼げる額が変わってシンセにお金を費やすようになったら、鳴らす「音」がだんだん「音楽」になってきたという感じです。
 最近、自分の好きなジャンルはアシッド・ミニマル・ノイズ系だということが判明しました。(この辺りのジャンルのアーティストでは)齋藤久師さん(※2)の影響が一番大きいです。初めてシンセバーに行ったときに受けた衝撃以来、尊敬しています。
 あとは、モジュラーフェスティバルで音聞いてドハマりしたRichard Devine(※3)、他にSimian Mobile Disco(※4)も最近好きで、よく流しています。


──今回、若草レコードからシングルを出すに至った経緯に関して教えてください。

 唐揚げが出てくるイベント「meating!(※5)」に出演させて頂いた際、無限軌道さん(※6)から「若草レコードからCD出してみませんか?」とお誘いを頂き、私がCDを出す!?と内心驚きつつも、初めてのことに挑戦してみようと思い、若草レコードさんの仲間入り(?)を果たしました。
 ※このイベントでのライヴ時にはGadgetron Soundsも居合わせていて、実際にマキノユキがvolca×3機で即興的にライヴを繰り広げていた様子を見ていた。若い子がシンセでトラックを作って流している!とフロアが沸き立っていたことを付記しておく。

 ※また、無限軌道はリリースの経緯について以下のように語っている。
 ── 一言で言うと「カッコよかったから」ですね(笑)。Twitterで坂巻さん(※12)主催の「play volca」にシンセ好き女子大生が来たという話を見かけました。その子が「meating!」でライヴをするというので見に行ったらとてもカッコよかったんですよ。ゴリゴリのミニマルで、ライヴするマキノユキさんの姿と音のギャップが凄かったです。終了後すぐに若草レコードからリリースしないかと声をかけました。数ヶ月後に恵比寿で開催されたAIRAの発表イベントで再会して、今回のシングルの企画が正式にスタートしました。


──「WEEKEND」という曲名に対してこのヘヴィさは面白いですね。どういった着想からこの作品に至りましたか。

 よく家でシンセで遊ぶのですが、特にvolcaシリーズ(※7)は持ちやすくて可愛くて気に入っていて、即興でよく鳴らしていたんです。それで、「meating!」でも電池駆動という括りで出演させてもらっていたので、初めての曲は電池駆動のvolcaで録ろうとなったんです。いつも遊んでる流れで録音したので、着想とかはないと思います。あとからパターンを思い出して保存するくらいだったので、ライブでやるとしても、もう同じようには出来ないかもしれません(笑)。
 タイトルは特に決めていなくて、無限軌道さんにデータを送るときにタイトルどうしよう…となって、高校生の頃に買っていた音楽雑誌を引っ張り出して、適当に開いたページの英単語から取って「WEEKEND」になりました。


──昔の打ち込みにくい機材で作ったようなアシッド感のある「RAINYDAY」についても。

 これはKORG MS-20mini(※8)とRoland SH-101(※9)を適当にぐりぐりしたものを録って、それをちぎって波形だけ見ながら並べ替えてみる遊びが最初でした。ある程度の長さまで行ったら音を聞いてみて、面白かったので頑張って長くしてみました。キックっぽい音は最初に録った分にはなかったので、SH-101で作って録りました。あと、これを作ってる途中でDoepfer Dark Time(※10)を買ってしまい、シーケンサーの偉大さをひしひしと感じ、自分で「RAINYDAY」の組み立てがすこし嫌になってる時期がありました。
 でも、これも「WEEKEND」もそうなんですが、ミックスに関して無限先生にはたくさんのことを教えて頂きました。コンプもいままでロクに使えてなかったので感動しながら作ってました。


──最近、littleBits(※11)絡みで何やらKORGさんと活動したりしていたようですが。

 シンセを触ったことのない人にも、シンセを自分で簡単に組み立てられるツールを通してシンセに興味をもつひとを増やしたいと思い、KORGの坂巻匡彦さん(※12)にモジュラーフェスティバルの時に相談して、自分の通う大学でlittleBitsワークショップを開催しました!
 案の定「音楽は好きだけど…シンセってなに?」というひとから「DTMサークルでソフトシンセは使ってるけど、ハードウェアの経験がない」というひとまで来場して頂き、大学を初めて活用できた機会かと思っています。フリーのソフトシンセも良いものがたくさんありますが、いろんな人にハードウェアのシンセも"買って"もらわないと、新しくて面白い機材に出会えなくなっちゃいますもんね…。

(最近気になる機材では)AIRA(※13)シリーズ、超気になってます。欲しいです。最近のメーカーの動きはすごく好きです。AKAIの新しいアナログリズムマシン(※14)も気になってます。女子大生は新しいもの好きなんです(違うかww)。でも昔の機材欲しくても、おじさん達がみんな持ってるし(※15)高価だし、なかなか手が出せないです。


──シンセを作る…。Max(※16)ですか、それともハードウェア系ですか?

 ハードウェアです!でも学校では回路の授業がなく、独学になってしまうので、進めるのが超遅いです。モジュラーシンセを作り始めて、まだ電源の部分です(笑)。Maxは大学の研究で使えそうなので興味はあるんですが、どんな研究テーマがいいのか全然思いつきません。


──今後どんな感じでやろうかという考えなどありましたら。

 今後どうなるかは全然わかりません。寧ろ、曲を作るよりシンセを作る方が好きなので、しばらく放置してたモジュラーシンセの制作を再開しようと思います。曲もシンセもクールなものを作りたいと思っています。いまのところ。

 (2014.09)



 このシングル『WEEKEND』では、表題曲およびRoland SH-101主体で作られた「RAINYDAY」の他、若草レコードの東條平八郎無限軌道THEE 歩兵を始め、ハードウェア主体のライヴで繰り広げる良質なテクノ/アシッドで評価の高いYebisu303、多連装ディレイと逆回転DJを武器にアンダーグラウンドシーンへ食い込み始めたノイズアーティストDaiteng、レーベルの誰かの変名nona.emanon.4らによる5曲の「WEEKEND」リミックスが収録されている。デトロイトテクノ~アシッドハウス系からエレクトロ、EBM、ノイズに至るまで実に幅広い解釈が加えられた、完成度の高い強烈な内容だ。
 また、フィジカルな音源は今秋のM3および通販で、デジタル音源では後程iTunes Music Storeでボーナスリミックスを追加しての発売となり、何れも見逃せない。

追記:Tokyo Future Musicにて通販及び店頭販売開始



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(※1) SX-150 … 学研『大人の科学』で話題を集めた、書店で買える4000円弱のアナログシンセ。リボンコントローラー風のインターフェースと電極(スタイラス)を使って演奏が出来る。回路の見直しと機能追加が成されたSX-150markIIもある。

(※2) 齋藤久師 … ガルトデップ、Yセツ王を経てpulselizeとして活動しつつ、音楽・機材系記事の執筆やシンセの開発にも携わるシンセアーティスト。酒を飲みつつ往年のヴィンテージシンセをいじり語らうシンセイベントSynth Bar、neuron records主宰。

(※3) Richard Devine … 90年代半ばから活動する、所謂「オウテカ以後」のエレクトロニカ系アーティスト。サウンドデザイナーとして数々の音源素材や機材開発にも関わっている。

(※4) Simian Mobile Disco … 元々はバンド形態だったが解散してニューレイヴ系に向かったUKのDJデュオ。その名の通り、モジュラーシンセ+アナログシーケンサー+ミキサーというコンパクトな機材縛りを基本としている。ニューレイヴの括りではあるがクラウトロック的な風情もある。

(※5) meating! … 参加人数が多いほどフリー唐揚げの量が増えるという非常にユニークなDJ/ライヴイベント。渋谷・新宿界隈で月に一度行われている。Gadgetron Sounds関係ではKaoru WatanabeがレジデントDJとして1時間枠を受け持っており、この枠でよく彼所縁のガジェット楽器アーティストをフィーチャーしている。

(※6) 無限軌道 … 片や大日本帝国陸軍の信号喇叭の教則、片やフロアを沸かせるに余りあるテクノ。軍楽とテクノを軸に展開を続ける個性派自主レーベル・若草レコードの、テクノ/アシッド/ダブ担当。骨太ゴリゴリなトラックメイクを得意とする本作のプロデューサー。ももクロを語らせると止まらない。

(※7) volcaシリーズ … KORGが開発した、グルーヴボックス形式の小型電池駆動アナログシンセ。ベースのbass、リズムのbeats、ポリシンセのkeys、サンプラーのsampleの四種類が存在。

(※8) KORG MS-20mini … 言わずと知れた80年代アナログモノシンセの名機・MS-20のリメイク機。えげつないフィルターとパッチングを搭載。Gadgetron Soundsでよく使われるDS-10シリーズはMS-20がモデル。

(※9) Roland SH-101 … MS-20と同時代に開発され人気を博したアナログモノシンセ。艶やかで端正な音が得意。

(※10) Doepfer Dark Time … 90年代からアナログ製品を作り続けるドイツのメーカー・ドイプファーの廉価アナログシーケンサー。

(※11) littleBits … マグネットで接続可能な電子パーツ・モジュール群を組み合わせることで、ロボットからシンセまで組み立てられる製品。日本国内ではKORGが販売提携しており、monotron準拠のフィルターやVCOモジュール、4ステップシーケンサーなどを出している。

(※12) 坂巻匡彦 … ガジェット楽器界隈にはお馴染み、Kaossilatorシリーズやmonotron・volcaシリーズなど数々の名作電子楽器に携わったKORGの開発者。

(※13) AIRA … 最近話題になった、Rolandの名機を回路の段階からモデリングして復刻および最適化を図るプロジェクト。TR-8はTR-808/TR-909系、TB-3はTB-303、SYSTEM-1はSH-101/SH-1を踏襲している。

(※14) AKAIの新しいアナログリズムマシン … たぶんRhythm Wolf。

(※15) おじさん達がみんな持ってるし … 申し訳ございません。

(※16) Max … Cycling '74のマルチメディア向け開発環境で、多種の共有オブジェクトを使ってシンセやエフェクターなどの音楽ソフトウェアが自前で作れる。旧名Max/MSP。似たような物ではReaktorがある。

(以上敬称略)


KORG volca

noise, techno, acid, minimal


[Artist Info] マキノユキ
シンセと美味しいものを食べることが好きな普通の女子大生です。
テクノとモジュラーシンセを追ってベルリンで少し生活してました。

ライブではvolcaシリーズやSH-101などハードシンセを主に使用。
2014年冬よりライブ活動再開予定。
>> official website