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in the night in your head / [yakan]
[GTRN0013   Release: 2014-11-24]

 数年前にDS-10/PLUSだけで作られた楽曲をコンパイルし、2011年に枚数限定でリリースされた『in the night in your head』が、9分半に及ぶ「resonant」ロングヴァージョンと、未収録曲「your waves」を追加して配信公開された。

 DS-10のようなガジェット楽器を電子音楽の表現手段として使う行為は至極ありふれているが、それをロック/インダストリアルの方向性として最も真正面から追求し続けたのは、恐らく後にも先にも[yakan](夜間)唯一人であろう。ナイン・インチ・ネイルズのような音を出したい、という動機がバンドからDS-10への活動へ移行してもひたすらに研鑽され続け、やがて己の血肉として個性化された一つの結果が本作に凝縮されている。表題曲を始め、「The Nail」「The Unseen」「into the circuit」「The Vital」そして「your waves」でその影響が覗えるだろう。
 聴いて判る通り、シンセのみであるにも関わらずカットオフと歪み(パラメータで言うとDRIVE)の調整で太く豊かな中域を作り上げるなど、ギターに大量のエフェクターを接続してのサウンドメイキングに近い。これが圧倒的な存在感を以てリードしていく迫力は全く以て本家に負けずとも劣らない。6音ポリである事実すら失念してしまう程だ。
 DS-10にトラック毎のEQ/エフェクトが無い故、こうした系統の音は潰れて扁平なミックスになりやすくなる傾向があるが、対照的にシンプルな波形のフレーズを織り込んだり、ディレイをリバーブのように使うことで、立体感やメリハリを巧く確保して絶妙なコントラストを保たせている。中でも特に、ヴォーカルとギターをフィーチャーしている「The Vital」は、DS-10を基本として制作されたとは俄に信じ難い程のサウンドの統一感に驚かされる。
 かたやプライマル・スクリーム的な感触のある「sending ring」のような曲もまた違った一面が見えたりもして面白い。

 没入を誘う真摯な曲調、それを押し進める力強いビートは完全にロックの文脈として鳴り響いている。こうして捉えていくだけでも充分に本作を興味深く聴き込めるが、しかしそれ以上に[yakan]の最も玄人跣(はだし)な技術と才能は、もう一つ別にある。

 “KORGのDS-10というシンセサイザーがありまして、一台で完結するあの感じが凄くハマリまして、これは楽しいなと思ってタッチペンでそうこうやっているうちに(音作りやパッチングは)ナマだろやっぱりという方向になりまして──”

 大阪におけるモジュラーシンセのミュージシャン達を追ったドキュメンタリー映画・『ナニワのシンセ界』で、[yakan]はモジュラーシンセを主体とした現在の音楽活動への動機を語っている。事実、既にDS-10での[yakan]の制作スタイルは、よくあるDS-10的な方法論に影響されること無くモジュラーシンセ的なアプローチを突き詰めていた。
 一番最初の発音から複雑さを帯びている「diffusion and convergence」や「green」のドローン、「Rubbing Side Roller」中盤以降のたった一音で仕立てられる音の壁などは、DS-10で普通のシークエンス構築やパターンプレイを前提としていたら先ず出てこない類の音だ。鳴らした瞬間の厚みや主張だけで終わらず、兎に角長いスパンで鳴らしつつリアルタイムで丁寧に作り込み、必要であれば弾き足し、内蔵エフェクターで追い込むことで象られる──こうしたライヴペインティングのような「連続的な音色変化を以て楽曲をプレイする」手法は、正にモジュラーシンセが得意とするエクスペリメンタルな音作りに他ならない。有機的で多彩な連続体、この極めてシンセ的なパフォーマンスの妙が、楽曲それだけで完結すること無く相互に不可分な要素として成り立っているのだ。
 確かにMSシリーズをベースにしたDS-10ではパッチングが可能だが、端子数は少なく、振幅やカットオフをVCOやVCFに通したりリングモジュレーションを設えたりするのが一般的な性能限界と言える。そんな制約下に於ても、これだけの豊かな変容と密度を表現し切り、尚且つ抽象的にならず馴染み易い形になっている楽曲となると、他ではなかなか聴くことが出来ない。楽曲の出来を楽しむだけでなく、是非とも音色変化の連続性にも着目しながら奥深く迄浸って頂きたい。

 現在[yakan]は、大阪~名古屋をベースに本格的なモジュラーシンセ使いとして活動している。モジュラーでのライヴと言うと、ノイズや現代音楽的な(所謂「電子音楽」といった)印象を持たれがちだが、[yakan]の場合、安定したリズムとコードありきでサウンドメイキングを繰り広げる一貫したスタイルであり、正に本作を押し進めた形になっている。馴染みやすく且つ面白いので、一度は見てみることを勧めたい。
 また電子音の深淵に向かっている彼が後継機種のDSN-12に触れた際、どんなフィードバックを持ち込んで来るのか、そちらの期待や興味も尽きない。

All sounds are made by KORG DS-10.
additional vocal:Spiky (12 The Vital)
additional guitar:RG7 (12 The Vital)

KORG DS-10/PLUS

noise, industrial, techno, rock, EBM


[Artist Info] [yakan]
元々はオルタナ、インダストリアル系のバンドで鍵盤を殴るなどして活動していたが、壊す楽器がなくなったので死蔵していたNintendoDSにKORG DS-10を導入し、ソロで活動を開始。
夜勤の勤務中に曲を作り、つかの間音楽で飯を食う時間を過ごす。
DS-10でシンセサイザーの音作りに目覚めたが、気がついた時、部屋はユーロラックモジュラーシンセサイザーで溢れていた。
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