ハードウェア機材やDAWから離れ、KORG DS-10PLUSだけを用いて制作された本作『Acclimation ***』を一言で表すとすれば、「ハードSF」が相応しいだろうか。作曲よりも開発と表現した方が的確とさえ思える楽曲の硬度や物理性が、理論やメカニクスを前提とした往年のハードSF的な世界観に準えられるのである。
それは曲調のみならず、Ron Ishiyama自身によるアートワークやアーティスト画像でも確認出来る通り、何台ものDSをクリップアームでコックピットの如く配置して繰り広げられる独自のライヴスタイルともオーバーラップする(とは言え、古き良きロボットの様相とはまた違い、高度な科学技術で成り立つ人工風景の管理を連想させる)。
端的に的確なジャンルを当てはめるなら間違いなくテクノである。だが一聴して判る通り、シカゴ~デトロイト方面の影は薄く、欧州的な色が非常に強い、日本人離れした感性に彩られている。奇を衒わず如何にもアナログシンセらしいストレートな音色を多用しつつ、独特の仄暗さと重厚感を醸成させた作風は、クラウトロックからテクノポップへとつながるジャーマン・エレクトロニクスの系譜を色濃く汲んだものと言えるだろう。「Vortical Field」や「Antibody」のように、シンプル且つキャッチーなメロディに煌びやかなシークエンスパターンが不可分の要素として縫い込まれる節からは、例えばタンジェリン・ドリームに匹敵する構築美や描写力を感じたりはしないだろうか。
「Uncontrollable」で聴けるチップチューン的なフレージングや、背後に多様なSEを織り込んだ「Awakening」など、PSG/FM音源らしさが垣間見える情景作りも特筆すべき特長と言える。実際曾てはトラッカー使いでもあったとの話であり、サウンドトラックの如く練られた構成とクオリティは長らく培われてきた技術の確かな証左となって随所に表れている。
本作に関して、当初のオファーは前作『A Piece of Phrase』の配信版であったが、常に新しい物を出していきたいというアーティスト自身の意向により(アルバムタイトルも「新しいことへの順応」の意図を込められている)、既にライヴ等で発表済×7曲+完全新規×5曲の新作となった。Bandcampで全曲フル試聴が可能だが、本筋はより高音質な音源をダウンロードして楽しめる
有料配信である。高評価すべきお気に入りの楽曲がある、あるいはこのRon Ishiyamaという一アーティストをサポートしたいと感じた際は、楽曲購入を通じてより充実した活動の素地を支えて頂ければ、当レーベルとしても幸甚である。
All tracks composed & mixed & mastered by Ron Ishiyama.
Photo, designed by Ron Ishiyama.
All tracks made by KORG DS-10 PLUS (w/ Nintendo DSi).
Mastering application : Final Touch (iOS)
Copyright (C) 2014 Ron Ishiyama, Ronikov All Rights Reserved.
KORG DS-10/PLUS
electro, techno, progressive